大判例

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仙台高等裁判所 昭和60年(う)23号 判決

所論は,要するに,被告人の原判示各立ち入り行為は,軽犯罪法1条32号(以下,「本号」という。)が予定する違法性を備えていないばかりか,管理権者の意思に反したものではなく,その承諾の範囲内の行為であるから,違法性がないのに,原判決が,原判示各立ち入りの事実を認定し,これに本号を適用して被告人を有罪としたのは,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある,というのである。

よって,審案するに,本号は,立入禁止の場所や耕作地の管理権を保護するとともに,耕作物等に対する窃盗や損壊行為等を未然に防止することを目的としたものであるが,その保護の対象は,管理権者が他人の立ち入りを禁止する意思を表明した場所のすべて,又は,他人の田畑であって,これらの場所に正当な理由がなく立ち入った場合には本号に該当するものと解すべきところ,原判決挙示の各証拠によると,被告人は,原判示のとおり,正当の理由がないのに,2回にわたり,いわゆるデートクラブのちらしを置く目的で電話ボツクス内に立ち入ったものであって,その電話ボツクスには,いずれも,日本電信電話公社仙台青葉通電話局長が,電話ボツクスにちらしを置くなど,通話以外の目的で立ち入ることを禁止し,併せて,違反者に対しては処罰される旨の警告文を記載したシールを電話ボツクス入口に貼付してあり,被告人はそのことを十分知っていたことが認められるから,被告人は,正当な理由がないのに,右電話局長が立ち入ることを禁じた場所に,同局長の管理権を侵害して立ち入ったことが明らかであるといわなければならない。所論は,本号の立法趣旨は,立入禁止の場所や耕作地の管理権を保護するとともに,耕作物等に対する窃盗や損壊行為を防止しようとするものであるから,被告人に窃盗や物の損壊行為の危険性を伴わず,電話利用の意思がなかった点を除いては,一般公衆の電話ボツクスの利用と全く同一の行為態様でなされた本件立ち入りは,本号の予定する違法性を具備していないと主張するが,本号は,窃盗や物の損壊行為の危険性を伴う場合に限らず,およそ管理権を侵害して立ち入る場合に成立するものと解されるところ,被告人に窃盗や物の損壊行為の危険性がなかったからといって,被告人が正当な理由がなく立入り禁止場所に立ち入ったことは,その管理権を侵害したことになるから,本件犯罪の成立,ことにその違法性を左右するものではなく,被告人の本件立ち入りが本号の予定する違法性を具備していなかったということはできない。

所論は,又,本件立ち入りは,一般人が通話目的で電話ボツクスに立ち入るのと行為態様において何ら相違がないから,管理権者の意思に反したものではなく,管理権者が消極的ながら承諾をしている範囲内の立ち入りであって違法性がない旨主張するが,管理権者たる原判示電話局長が電話ボツクス入口に前記シールを貼付して,ちらしを置くなど通話以外の目的で立ち入ることを明示の意思をもって禁止しているのであるから,被告人の本件立ち入りにつき,管理権者の承諾が消極的にもあったということはできず,一般人が通話目的で電話ボツクスに立ち入るのと行為態様において相違がないからといって,本件行為は違法性がないということはできない。

してみれば,被告人が,正当な理由がないのに,原判示電話局長の管理にかかる電話ボツクス内に,いわゆるデートクラブのちらしを置く目的で立ち入った所為について,本号を適用した原審の措置には何らのかしはなく,同法の適用にあたっては,国民の権利を不当に侵害しないように留意し,その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用することがあってはならないとする同法4条の趣旨や,国民の日常生活の文化的向上に資するため,卑近な道徳律に違背する比較的軽微な犯罪とこれに対する刑罰を定めた本法の目的及びその制定経過等を参酌しても,原判決には法令適用の誤りはなく,独自の見解に立って原判決をるる論難する論旨は,原判決の認定判断に照らし,理由がない。

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